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場面緘黙症のカウンセリングと治し方

話せない苦痛

場面緘黙症(正式名称は選択性緘黙)の概要、原因、診断、特徴、症状、経過、治療、カウンセリングを解説します。場面緘黙症は特定の場面で一貫して発話や行動に困難を示しますが、他の場面では支障なく話せたり、行動ができる状態です。そのため、本人は困っていても、目立つことがなく、人にも迷惑をかけないので、発見が遅くなることが多いです。

1.場面緘黙症とは

海と子ども

場面緘黙症とは、公の場や人前で話すことができなくなる症状で、不安症の一種です。人前で話すことに対して異常な恐怖心や不安を感じ、声を出せなくなったり、固まってしまったりすることがあります。また、緊張や不安がピークに達すると、身体的な症状(動悸、手の震え、汗をかくなど)が現れることもあります。治療には、認知行動療法や行動療法、薬物療法などが用いられます。

特に話す能力があるにもかかわらず、幼稚園・保育園・学校・職場などの特定の社会的状況では声を出して話すことができず、家庭外での社会的な活動が増える幼児期から小学校低学年の頃に気付かれることが多い疾患です。場面緘黙症は少し前までは“elective mutism”と表現され、話さないことを自らの意思で“elect”(選択)しているという、拒否的な態度で捉えられていましたが、今は“selective mutism”と“select”(選択)された状況で話せないという不安に関連した問題としての理解が強くなりました。決して話すことを拒否しているのではなく「話せない」病態と捉える方が一般的です。

ただ、この「話せない」という状態が強いと社会的な孤立が増大することが出てきます。例えば、学校という社会的な状況では、しばしば学業または個人的に必要な事項について先生に確認をできないため、学業上の問題を起こすかもしれませんし、同級生からのいじめが起こりやすいなども含めて、学校や社会生活の機能に深刻な問題を引き起こします。

場面緘黙症に関連する症状として、過度な内気、狼狽することへの恐怖、社会的孤立と引きこもり、まといつき、強迫的傾向、否定的思考、かんしゃく、または軽度の反抗的行動が含まれることもあります。また、DSM-5では、社交不安症、全般性不安症、分離不安症、特定の恐怖症などの不安症群の一つに分類されており、他の不安症群の併存例が多いので、不安症の併存の評価を行うことが大切です。

不安症についての詳細は以下のページをご覧ください。

場面緘黙症の発症は通常5歳未満ですが、社会的交流や音読をするなどのような課題が増える学校に入るまで、この障害が臨床家の目にとまることはないかもしれません。これまでは数年、持続する場合もあるとされていましたが、DSM-5では多くの人が場面緘黙症から「脱却」することが報告されています。特に新学期のような新しい集団に入る時点での緘黙については、数ヶ月後には改善していることが多いです。最近の縦断的研究では場面緘黙症の症状は成人期までにかなり改善しますが、併存する社会恐怖などの不安障害は残存することが多いことも示されており、経過についても不安症状と関連が深いことが示唆されています。

2.場面緘黙症の原因

泣いている二人の子ども場面緘黙症の原因は十分に解明されてはいません。入園や入学といった社会的な環境の変化によるものや、脳の偏桃体という部位が人よりも反応しやすいという説もありますが、単一の要因で発症するというよりも、以下のような様々な問題が背景にあることが指摘されています。

  • 行動抑制やシャイといった不安などの気質的な要因
  • 心理社会的および精神力動的要因
  • 社会的手掛かりを処理することができない神経心理学的要因
  • 話し言葉と言語の学習障害
  • 発達の遅れの既往

シャイは社会的な場面での会話を含めた社会的な相互作用が抑制されたり、回避されたりする要因となります。場面緘黙症の子どもたちはシャイで引きこもりであることが多く、乳幼児期や小児期に外界にゆっくり慣れるこや行動抑制的であったという観察も報告されています。

さらに発達障害の特性を持つ子供について、こうした場面緘黙症を発症することも考えられます。

場面緘黙症は比較的まれな障害であるため、小児期における有病率に関する調査は少なく、臨床資料や学校資料での時点有病率は0.03~1%と程度と言われています。有病率に性差はないとも言われていますが、わずかに女児が多いことが示されています。また、人種による差はありませんが、移民やバイリンガルの子どもたちでは数倍から10倍程度リスクが高くなることが報告されています。そして、場面緘黙症は青年や成人と比べて、低年齢の子どもでより現れやすいです。

3.場面緘黙症の診断

医者と相談場面緘黙症の特徴的な症状は以下の、A、B、C、D、Eの基準に沿って診断がなされます。

場面緘黙症のDSM-5による診断基準

  1. 他の状況で話しているにもかかわらず、話すことが期待されている特定の社会的状況(例:学校)において、話すことが一貫してできない。
  2. その障害が、学業上、職業上の成績、または対人的コミュニケーションを妨げている。
  3. その障害の持続期間は、少なくとも1ヶ月(学校の最初の1ヶ月だけに限定されない)である。
  4. 話すことができないことは、その社会的状況で要求されている話し言葉の知識、または話すことに関する楽しさが不足していることによるものではない。
  5. その障害は、コミュニケーション症(例:小児期発症流暢症)ではうまく説明されず、また自閉スペクトラム症、統合失調症、または他の精神病性障害の経過中にのみ起こるものではない。

引用:DSM-5

要するに明らかな発達の遅れや言語障害なく、他の状況では話すことができるにも関わらず、特定の社会的状況では一貫して話すことができない場合に場面緘黙症である可能性が出てきますが、話せないことによる実質的な困難が存在していなければ、診断基準は満たしません。

4.場面緘黙症の治し方

寝ている人場面緘黙症の経過は一人一人異なっており、数ヶ月から数年の経過で脱却することも少なくないため、場面緘黙症と診断がついたとしても必ずしも積極的な治療が必要とは限りません。まずは、緘黙による苦痛の程度や機能障害を十分に評価したうえで、治療の必要性について判断しなければなりません。

(1)本人へのカウンセリング

現在、場面緘黙症に対する一般的な治療法は確立されてはいません。しかし、場面緘黙症を不安症として理解する流れの中で、治療についても不安に対する治療が主流になりつつあります。具体的な治療としては以下のようなものがあります。

  • 随伴性マネージメント
  • 系統的脱感作
  • 強化
  • 刺激フェーディング
  • トークン法
  • セルフモデリング

上記のような行動療法の技法を組み合わせたものが多いです。その他には、家族療法や薬物療法の効果を示した報告もあります。

また、子どもへの直接的なカウンセリングでは、対人交流やコミュニケーションを促しながら話すことに関連した不安を軽減することが目標となります。学校場面での介入では以下のようなことをターゲットとします。

  • 不安の軽減
  • 非言語的コミュニケーションの増加
  • 対人交流の増加
  • 言語的コミュニケーションの増加

その上で、以下のような介入を行っています。

  • 話すことを強要しない
  • 友達関係を促す
  • 認知行動的技法を用いてリラクゼーションを試みる
  • 記号やジェスチャーなどの代替コミュニケーションの仕組み作り
  • 少人数の集団での活動
  • 言語スキルを高めるための言語療法

このようにして具体的に介入をしていきます。

(2)家族や教師へのカウンセリング

小学生の場面緘黙症の場合は、保護者の不安から介入が求められることが多く、子どもの治療的ニーズと保護者への支援ニーズとを適切に理解する努力も必要になります。子どもへの直接的な治療的介入だけではなく、保護者のサポートや学校での対応など、子どもをとりまく環境への働きかけも場面緘黙症の治療では重要な要素です

ただ、場面緘黙症は、精神科医療の対象ですが、学校場面で生じることが多いため、学校教育の対応も非常に重要になります。従来から教育現場では場面緘黙症症児への対応が行われてきており、言葉の教室や情緒障害の支援学級での指導経験が報告されています。しかし、実際には通級指導教室や支援学級で指導を受けている子どもは非常に少なく、通常学級で学校生活を送っている緘黙症児も多いと言われています。

場面緘黙症の子どもへの対応は、臨床家だけでなく、保護者や教師との協力が不可欠となります。これらは適切な臨床評価をもとに、一人一人の子どもの特性とニーズに応じた支援を実施することが重要です

5.場面緘黙症について相談する

3人の女性以上、場面緘黙症の概要、原因、診断、特徴、症状、経過、治療、カウンセリングについて説明しました。場面緘黙症は、「話したくても話せない」疾患です。自然と状態が軽くなることもありますが、一人で抱え込まず、なるべく早めに気づいて、専門家に相談できると良いでしょう。

(株)心理オフィスKでは場面緘黙症について家族の相談やカウンセリングを実施しています。希望者は以下の申し込みフォームからご連絡ください。

文献


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