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P,ハイマン 逆転移について(1950)

目次

  1. 要約
    1. この論文の歴史的背景と価値
      1. 逆転移の認識の変化
      2. 1950年前後
    2. 逆転移の理解
      1. 精神分析研修生「逆転移は単なるトラブルの種でしかない」
      2. 一方フェレンツィの理解
      3. アリス・バリント
    3. ハイマンの理解
      1. ハイマンの逆転移
      2. 逆転移は患者の無意識を探っていく道具
      3. 自由に働く注意力
      4. なぜ注意力が必要なのか
    4. ケース
    5. 逆転移は患者による創造でありパーソナリティの一部分
      1. このアプローチの危険性
      2. 冒頭の逆転移に対し、超然とするか告白するか
    6. フロイトの逆転移の利用
    7. 感想と話し合いたい点
  2. 解説
    1. P,ハイマンの生い立ち
    2. それまでの逆転移について
    3. 投影同一化を取り上げない
    4. 同時期の逆転移の考え方
    5. 低頻度セラピーにおける逆転移の活用
    6. 文献
  3. PDFファイル

P,ハイマンの写真

図1 P,ハイマンの写真

P,ハイマン 逆転移について(1950)要約

1.この論文の歴史的背景と価値

(1)逆転移の認識の変化

 1970年代から始まる「精神分析家の<逆転移>についての理解を抜きに<転移>をとらえることは、片手落ちの認識に陥りやすい」との認識。

 1950年前後からこの認識が始まる。「逆転移は精神分析家の病理にかぎられたものではなく、患者のパーソナリティの一部であり、ゆえに精神分析治療の道具である」・・・ハイマンの論文から始まっている。

(2)1950年前後
  • ウィニコット「逆転移での憎しみ」自然な感情としての逆転移
  • ハイマン「逆転移について」
  • マーガレット・リトル「逆転移とそれへの患者の反応」
  • アニーライヒ「逆転移について」
  • ラッカー「逆転移の問題への寄与」
  • モネーカイル「正常な逆転移とその逸脱」

主要な論文が発表される。

 この動きの背景にはクラインの投影同一視の概念「患者の内的対象や自己が無意識のうちに精神分析家の中へ投影される」

 その投影を受ける精神分析家のこころが検索される必要・・・逆転移の問題

 しかしクラインは古典的な逆転移の理解を重視してしていたためにクライングループと離れることに。ただ、クライン派の精神分析ではハイマンのこの逆転移の理解が精神分析技法の特徴ともなっていった。

2.逆転移の理解

(1)精神分析研修生「逆転移は単なるトラブルの種でしかない」

 患者に対する感情に気づくと、それをおそれ、罪の意識を感じ、そのため、情緒的な応答を避け超然としていようとする。

 精神分析家の理想像。手術時の外科医のような、はフロイトの発言の読み間違いに端を発している。

(2)一方フェレンツィの理解

 感情を持つことを認め、包み隠さず表現することを奨める。

(3)アリス・バリント

 そうすることで精神分析家はより「人間らしく」なれるし「人間らしい」関係をつくるのを手伝ってくれる。

3.ハイマンの理解

(1)ハイマンの逆転移

 精神分析家が患者に対して経験するすべての感情。つまり、精神分析家側の転移を表すものだけではない。

 精神分析家に向けられる感情(a)その人物に向けられる感情、(b)転移感情。

 この二つは明確には分けられない。(a)は精神分析が進み、現実的な感覚が感じられるようになる。

(2)逆転移は患者の無意識を探っていく道具

 精神分析状況の独特な特徴となる二人の関係→互いに依存しあっている二つの要素としての体験される感情の深さと感情の使われ方

 この視点では、教育分析の目的は、精神分析家のなかにかきたてられた感情を(患者がするようには)発散させず保持できるようにすること。その感情を患者を映し出す鏡として機能するという精神分析的役割に従わせる。

(3)自由に働く注意力

 患者の情緒の動きや無意識の空想についていくために必要(例えば、明示と暗示、ほのめかしや含み、前回セッションへのヒント、子ども時代への状況への言及・・・)

 自由に湧き上がる情緒的な感受性が必要。

(4)なぜ注意力が必要なのか

 基本仮説:精神分析家の無意識が患者の無意識を理解する

 逆転移として患者への反応の中で精神分析家に気づかれる感情として、表面に現れる。意識的理解よりも鋭く進んでいる。

4.ケース

 引き継いで間もなくのケースの患者が少し前に知り合った女性と結婚するつもりだといった。精神分析家が不安や心配、困惑。ただの行動化ではない。その相手の連想や夢から、自分を守ってくれるはずの分析者をとん挫させることで傷つけたいとサディスティックな性質と、それに罪悪感を抱き償いたいマゾキスティックな性質のシステムによって決定されていたことが明らかになった。

 精神分析家の情緒的な反応が指針となっていた。

5.逆転移は患者による創造でありパーソナリティの一部分

(1)このアプローチの危険性

 自分の情緒を使うから精神分析家は自身の課題をワークスルーしている必要性がある。Pp.185「精神分析家は自らの精神分析において幼児期の葛藤や(妄想性と抑うつ性の)不安をワークスルーしているから、自分の無意識に触れようとするのは容易であり、自分に属しているものを患者にかぶせることはない」

 この点がフロイトの、「逆転移を認識し扱いなれ」ていなければならないという要請の意味。

(2)冒頭の逆転移に対し、超然とするか告白するか

 洞察の源泉として使うべき。解釈されワークスルーされると現実吟味の増強を含み、患者は精神分析家を人間としてみる。精神分析家が精神分析以外の手段に頼らないで人間らしい関係が続いていく。

6.フロイトの逆転移の利用

 ヒステリー患者の忘れられた記憶の探索。反発する力を感じ、その抵抗する力と、重要な記憶の抑圧やヒステリー症状の形成に働いていると結論づけた。

 抑圧の場合には、逆転移はある量のエネルギー、抵抗する力という感覚として特徴。また別の防衛機制の場合には精神分析家の反応として別の性質が湧きおこってくる。

7.感想と話し合いたい点

 逆転移が指針となり精神分析の有効な道具となることや、そのための訓練の必要性を明確としたところについては納得したところだった。

 逆転移を洞察の源泉とするために、発散させず遠ざかることをせず素材の一つとして扱っていく。発散させること(告白)も場合や患者の病気のレベルや検討能力によってはあってもいいのかもしれない。

 告白について、ネガティブな気持ちをそのまま発散させることは論外だとしても、励ましたり認めたり助言することも患者さんへの逆転移がそうさせる部分があるのかととは思います。そうしたくなるときは皆さんにはありますか?あるとすればどんなとき、どんな患者さんのときにそうなりますか?


P,ハイマン 逆転移について(1950)解説

1.P,ハイマンの生い立ち

 1899年にポーランドで出生。両親はロシア人である。幼少期のことはほとんど不明である。ベルリンで医学を学び、その後、ケーニヒスベルク、フランクフルトなどに居住。その間に、フランツ・ハイマンと出会い、結婚。1924年にハイデルベルクに行き、そこで精神科医としての訓練を受けた。その時に娘を出生した。その後、1927年にベルリンへ転居し、テオドール・ライクに精神分析家としての訓練を受け始めた。当時、ナチスドイツの影響もあり、ベルリンで国会議事堂が火事で燃えるということがあり、そのことで彼女は一時的に逮捕されるということもあった。そのこともあり、彼女らはベルリンから亡命することとなったが、理由は不明だが、1933年に夫はスイスに、彼女と娘はイギリスに亡命した。

 亡命後、イギリスでM,クラインと出会い、そのクラインに訓練分析を受けた。1938年に英国精神分析協会の会員となった。また、クラインとアンナ・フロイトの大論争の際には彼女はアイザックスと共に、クライン派の論客として重要な役割を担っていた。しかし、1950年に本論文「逆転移について」を発表する際には、クラインから出版取りやめを強要されたが、それを拒否。一説には逆転移の利用についてクラインが反対しただけではなく、クラインの論文が一つも引用されてなかったことに激怒したのではないかと言われている。それはともかく、その頃からクラインと彼女との間には亀裂が生じ始めていた。そして、1956年にクラインが「羨望と感謝PDF」を発表すると、ハイマンはこれを批判し、彼女らの決別は決定的となった。その後、ハイマンは独立学派グループに所属するようになった。その後も、臨床、研究、指導に専心していたが、1982年10月22日に83歳で死去した。

2.それまでの逆転移について

  • 1910年「精神分析療法の今後の可能性」で初めて逆転移について言及
  • 1912年「転移の力動PDF」でも逆転移について触れ、中立性を害するものと認識。教育分析の必要性。
  • フロイトは患者の無意識を検出する道具という認識もややあったようだが、それを発展させることはなかった。

3.投影同一化を取り上げない

  • ハイマンは逆転移を患者の無意識を探索する道具として定式化した。
  • しかし、逆転移とはどういうものかという理論化は行っていない。
  • 投影同一化のメカニズムが転移・逆転移の理論背景としてあるが、それにも触れていない。
  • ハイマン自身は妄想分裂ポジションについては否定的に考えていたことが影響しているか。

4.同時期の逆転移の考え方

  • D,W,ウィニコット(1947)は、精神分析家の中にある怒りには正当なものも含まれているとした。
  • M,バリント(1949)は、逆転移は精神分析家の全般的な反応全体とした。
  • M,リトル(1951)は、逆転移と共感の繋がりについて論じた。
  • H,ラッカー(1953)は、逆転移を補足的逆転移と融和的逆転移とに分けた。前者は精神分析家の神経症的な反応で、後者は共感に関係するものである。
  • マネー・カイル(1956)は、逆転移を共感と理解の基礎とした。投影同一化から説明。
  • W,R,ビオン(1962)は、コンテイナー機能としての逆転移。

 クラインはハイマンの逆転移の活用について否定したが、その後のクライン派では皮肉にもこの逆転移を最重要な技法として位置づけていった。

5.低頻度セラピーにおける逆転移の活用

  • 精神分析における逆転移はいずれも週4~5回の毎日分析からの知見であり、その実践で使われている。
  • 今日の我々が行っているセラピーは週1回以下の低頻度のものがほとんど。
  • 逆転移は基本的には無意識のプロセスなので、意識的に知覚できるものではない。
  • 振る舞いや行為、情緒から間接的に知ることができるのみ。
  • セラピーの中で部分的にでも治療者が自由連想をする。
  • 転移と逆転移をすぐに扱おうとせず、それを抱え、そのストーリーをまずは生きてみる。
  • プロセスノートには治療者の情緒や行為、振る舞いを記述する。
  • 今ここで知ることはできないかもしれないが、後から振り返って発見できるようにする。
  • スーパービジョンや個人分析(教育分析)を受ける。
  • (クラインの批判ではないが、安易な逆転移の使用は有害かもしれない)

6.文献

PDFファイル

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