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公認心理師に未来はあるのか

日本心理臨床学会第39回大会はweb開催となりました。その中の会員企画シンポジウム「公認心理師の、その先へ-実践心理職の未来を創る-」から考えたことを書きます。

(1)開業分野について

福祉、教育、医療、司法、産業の5分野ということを公認心理師は掲げています。この中には開業分野は入っておりません。しかし、公認心理師になっている人の中には開業分野で働いている人、私のように自営している人は少なくありません。開業分野が排除されているような状況に思えてなりません。

ある公認心理師協会に入会する時、どの分野で仕事をしているのかを確認されたことがありました。その選択肢にはこの福祉、教育、医療、司法、産業の5領域しかありませんでした。私は開業でしか働いていないと申告しましたが、便宜的ということで説得され、以前に働いていたある分野で登録せざるをえないことがありました。こうしたことは開業というアイデンティティを否定されたような体験として私の中には残っています。

今後の公認心理師の中に開業分野ということが排除されることなく、一つの分野として掲げられるような未来を私は期待しています。

(2)Gルートでの受験

心理職の発達という話題の中で、学部での教育、大学院での教育があり、そこで基礎的な知識や技能を習得し、研究的なマインドを身に着けるということが大切であるとあったかと思います。しかし、公認心理師の受検の中で経過措置的な位置づけではありますが、Gルートというものがあります。

その中にはこれまで学部や大学院で臨床心理を学んで、臨床心理士資格を取り、受験された方が多くいる反面、全くそうした教育を受けず、無手勝流にカウンセリングを行い、丸暗記で公認心理師資格試験を受験・合格された方もいます。そうした方の全てが全く基礎がないとは申しません。しかし、基礎なく、無手勝流なカウンセリングをしている人は確実にいるようです。

そうしたことについて、危機感を感じている人は多いでしょう。

卒後教育ということも話題になりましたが、階段方式で、大学や大学院で基礎を学び、専門職として働いている人のための卒後教育は非常に重要でしょう。一方で、基礎の習得がないまま公認心理師になってしまった方の、翻っての基礎を学びなおすような卒後研修も極めて重要ではないかと考えます。

公認心理師の現任者の問題点については以下のページをご参照ください。

(3)卒後研修について

卒後研修をどこで行うのかという問題はこれから取り組むことになるかと思います。これまで、良いか悪いかは別として、心理療法の各学派や流派はそれぞれの立場の専門家を育てるインスティチュートを自前で持っていたりもします。系統だった講義やスーパービジョン、必要に応じて自身がカウンセリングや精神分析を受け、その道の専門家としてのキャリアを積んでいくというものです。

こうしたインスティチュート方式の問題点はさまざまあるでしょうが、それでもこれまでの心理職の学部・大学院を卒業した後の研修を担ってきたかと思います。

こうしたインスティチュートを排除するのではなく、協働・活用していくこともあって良いのではないかと私は考えました。

(4)エビデンスベースドについて

エビデンスベースドの主として認知行動療法を掲げておられたように思います。ご存知かとは思いますが、認知行動療法以外でもエビデンスベースドにのっとった心理療法の技法は数多くあります。

公認心理師現任者講習会のテキストなどにも、認知行動療法以外の技法は掲載されていますし、公認心理師資格試験の問題にも同様に認知行動療法以外も出題されています。エビデンスベースドが認知行動療法のみに限られているような表現が一部見られたように思いますし、それは誤解を広めてしまうことになるのではないかと危惧しました。

また、エビデンスは統計的に算出された、効果が出現する確率の高さかと思います。つまり、統計的に示されていることが必ずしも目の前のクライエントに効果が生じるかは別物なのでしょう。当然と言えば当然のことかもしれませんが。

エビデンスベースドの考え方は、エビデンスある技法を必ず使わねばならないという教条主義ではなく、目の前のクライエントのアセスメントや心理職の持っている技能やリソースなど様々なデータからナラティブに導き出される技法を実施することかと思います。エビデンスは参照枠の一つと言い換えることができるかもしれません。

こうしたことにも関わらず、エビデンスで示されているからという理由で、無思考的に、無批判的に、認知行動療法を機械的に実施するという事例も散見されます。それは一部の例外かもしれませんが、そうではないかもしれません。

特に臨床では、研究の中で取り上げられているようなうつ病ならうつ病、不安障害なら不安障害と簡単に診断できるようなシンプルな事例はむしろ例外的で、多くは非常に複雑に絡み合い、いずれにもカテゴライズできないような事例の方が多かったりもします。

こうした臨床に即したような教育や研修が今後の公認心理師の未来には必要になってくるのではないかと思いました。

(5)今後の公認心理師法の改定について

公認心理師資格ができたが、まだまだ不十分なところがあり、今後改正していくことが重要であるという話があったかと思います。私も同感でございます。そして、そのための方略として、知見を積み重ねたり、データを示したり、という論理的な議論は非常に大切で、意味あることだろうと思います。

しかし、一方ではそうした論理ではなく、感情や力、もしくはお金、権力、数といった非論理的な事柄によって左右されることもあるのではないかと思います。政治的、ということばで言い表せることもできるかもしれません。河合隼雄先生は良くも悪くも非常に政治的で、国や官僚との折衝で心理職の存在価値を広めていったかと思います。功罪はあれどもスクールカウンセラー制度はその成果の一つかと思います。

スクールカウンセラー制度の功罪についての詳細は以下のページにあります。

今回の公認心理師でも様々な団体の思惑や既得権益の中で、下山先生がお話されていたような、ここが変だよ、というような公認心理師の立て付けになってしまったかと思います。公認心理師の改正のために、知見やデータを積み重ねることはやらねばならないテーマかとは思いますが、政治的な行動といった非論理的な部分も必要になってくるのではないでしょうか。

我々心理職は良くも悪くも真面目で、受動的で、誠心誠意に話し合えばわかってくれるといった幻想をもっているように思います。それは心理職としての美徳だとは私は思います。しかし、海千山千の政治的な中で主張を通していくことには不向きであるとも思います。

この点、今後の公認心理師の未来を描くための法案の改正について、政治的な行動をどのようにしていくのかは課題ではないかと思います。